孫への贈与は原則として特別受益にならない
「かわいい孫の将来のために、まとまった資金を援助したい」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。しかしその一方で、「特定の孫だけを優遇することで、他の相続人との間で不公平が生じ、将来の紛争につながらないか」という不安を抱く方もいるでしょう。
結論から申し上げますと、祖父母から孫への贈与は、原則として「特別受益」には該当しません。
なぜなら、特別受益とは、共同相続人間の公平を図るために、特定の相続人が被相続人(亡くなった方)から受けた特別な利益(遺産の前渡しと評価できる生前贈与など)を、相続分の計算上考慮する制度だからです。つまり、この制度の対象は法律上の「相続人」に限定されています。
孫は、原則として相続人ではありません。したがって、相続人ではない孫への贈与は、特別受益の問題とはならないのが基本的な考え方です。このテーマの全体像については、特別受益の基本的な考え方で体系的に解説しています。
ただし、物事は常に原則どおりに進むわけではありません。ある特定の状況下では、この原則が覆り、例外的に特別受益とみなされる可能性があるため、注意が必要です。
例外的に特別受益とみなされる3つのケース
孫への贈与が特別受益として扱われるのは、その贈与が実質的に「相続人への贈与」と同視できるような、特別な事情がある場合に限られます。法律は形式だけでなく、当事者間の実質的な公平性を重視するためです。具体的には、以下の3つのケースが考えられます。
1. 孫が代襲相続人となった場合
最も注意すべきなのが、孫が「代襲相続人」となるケースです。代襲相続とは、本来相続人となるはずだった子(孫から見て親)が、被相続人(祖父母)より先に亡くなっている場合に、その子に代わって孫が相続人の地位を引き継ぐ制度です。
この場合、贈与が行われたタイミングが重要な判断基準となります。
- 子が亡くなる前(孫が相続人ではなかった時期)の贈与:原則として特別受益にはなりません(通説)。
- 子が亡くなった後(孫が代襲相続人になった後)の贈与:特別受益とみなされる可能性があります。
ポイントは、贈与を受けた時点で孫が相続人であったかどうかという点です。孫が代襲相続によって法定相続人の立場になってから受けた贈与は、他の相続人への贈与と同様に扱われることになるのです。
2. 孫を養子にしている場合
祖父母が孫と養子縁組をしている場合、その孫は法律上「子」としての身分を取得します。これにより、孫は実子と同じく第一順位の相続人となります。
相続人となった孫に対して、大学の入学金や結婚資金、住宅購入資金といった「生計の資本」となる贈与が行われた場合、それは他の子への贈与と同様に特別受益として扱われる可能性があります。養子縁組によって孫が「相続人」という立場になることが、法的な評価を変えるのです。誰が相続人になるかについては、正確な相続人調査が不可欠です。
3. 実質的には子への贈与と判断される場合
形式上は孫への贈与であっても、その実態が「実質的には子(孫の親)への贈与である」と評価されるケースがあります。
例えば、祖父母が孫の学費を支払った場合を考えてみましょう。未成年の子を扶養する義務は、第一次的にはその親にあります。祖父母による学費の支払いは、本来親が負担すべきであった支出を肩代わりしたことになり、結果として親が経済的な利益を受けたと判断される可能性があります。
このようなケースでは、孫への贈与が親(相続人)への特別受益とみなされ、遺産分割の際に考慮されることがあります。裁判所は、名目上の受贈者が誰かという形式だけでなく、その贈与によって実質的に誰が利益を得たのかという観点から、相続人間の公平を図ろうとするのです。

そもそも特別受益とは?「生計の資本」が判断基準
ここで改めて、特別受益制度の基本に立ち返ってみましょう。この制度は、一部の相続人だけが生前に多くの財産を受け取っていた場合に、その不公平を是正することを目的としています。いわば「遺産の前渡し」と評価されるような贈与が対象となります。
そして、その「前渡し」に該当するかどうかの重要な判断基準が、「生計の資本としての贈与」であるかどうかです。これは、単なるお小遣いや生活費の援助とは一線を画し、独立した生計の基盤となるような、まとまった経済的援助を指します。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 住宅購入資金の援助
- 事業を始めるための開業資金
- 大学や大学院、留学など高額な学費
これらの贈与は、受贈者のその後の人生の基盤を形成するものであり、他の相続人との公平を保つために遺産分割で考慮されるべき、というわけです。より具体的な説明については、少額贈与と生計の資本の判断基準をご覧ください。
将来のトラブルを防ぐために注意すべきこと
孫への贈与を検討する際には、それが特別受益に該当するかどうかにかかわらず、将来の相続トラブルを未然に防ぐための対策を講じておくことが賢明です。
まず、贈与の事実と趣旨を明確にするために、「贈与契約書」を作成しておくことを強くお勧めします。いつ、誰が、誰に、いくらを、どのような目的で贈与したのかを書面に残すことで、後日の認識の食い違いや証拠不足による争いを防ぎやすくなります。
また、注意したいのが「遺留分」の問題です。たとえ孫への贈与が特別受益に該当しない場合でも、その贈与額が非常に高額で、他の相続人の最低限の取り分である遺留分を侵害してしまうケースがあります。遺留分を侵害する贈与は、後に相続人から取り戻しを請求される(遺留分侵害額請求)可能性があるため、安易な高額贈与は慎むべきです。
相続をめぐる問題は、一度こじれると解決が難しく、親族間の感情的なしこりを残しがちです。生前の対策をしっかり行い、円満な遺産分割へと繋げることが重要です。
孫への贈与や相続に関するご不安やお悩みは、法的な問題が複雑に絡み合うことが少なくありません。ご自身のケースで具体的なアドバイスが必要な場合は、お早めに当事務所へご相談ください。

千葉市中央区にある早川法律事務所は、相続、交通事故、離婚、債務整理、法人・事業者の法的トラブルなどを15年以上にわたり取り扱ってきた法律事務所です。
千葉県内(千葉市、船橋市、市川市、成田市など)をはじめ、東京都・茨城県全域のご相談に対応。
19年以上の経験をもつ弁護士が丁寧にお話を伺い、わかりやすくご説明いたします。
オンライン相談、ネット予約、電子決済(クレジット・交通系IC等)にも対応し、ご相談しやすい環境を整えています。
まずはお気軽にお問い合わせください。

