遺留分侵害額請求について

「遺留分侵害額請求とは?」

「遺留分はどうやって請求したらよいか」

遺留分については「遺留分をご存知ですか?」のページで簡単にご説明させていただきましたが、このページでは遺留分侵害額請求について、もう少し詳しくご説明させていただきたいと思います。

1.はじめに

遺留分侵害額請求とは、2019年7月に施行された民法の改正前には遺留分減殺請求と呼ばれていたものです。どちらも遺留分が侵害されたときに相手方へ請求するものですが、大きな違いは金銭請求しかできなくなったことです。したがいまして、遺留分侵害額請求とは、遺留分が侵害されたときに、侵害した者に対して侵害された分の金銭を請求するものということになります。


2.侵害額の計算

(1)計算の基礎となる財産

遺留分の侵害額を計算するためには、まず、自己の遺留分額を計算する必要があります。つまり、本来の自分の取り分を計算するということです。例えば被相続人が死亡する直前に財産のほとんどを他人に贈与していた場合には残された財産はほとんどありませんので、この状態で遺留分を計算したとしても無意味となってしまいます。したがいまして、遺留分額の計算にあたっては、まず、贈与されてしまった財産の額を持ち戻すなどして遺留分計算の基礎となる財産額を計算します。

遺留分計算の基礎となる財産額は、以下の計算式で計算します。

(被相続人が相続開始時(通常は死亡時)に有していた財産の価額)+(贈与財産の価額)-(相続債務の全額)

「贈与財産の価額」はすべての贈与が対象となるのではなく、相続開始前の1年間にしたものに限られます。ただし、贈与した者とされた者の双方が遺留分を侵害することを知っていたときには1年前の日より前にしたものについても算入されます。また、相続人に対してなされた贈与は10年前まで遡って算入されますが、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与、つまり特別受益の価額に限られます。

「相続債務の全額」とは、遺産における借金等の負債のことであり、これを差し引くのは、資産から負債を引いた額が実際に利益を得る額になるからです。言うなれば純資産で遺留分額を計算するということになります。


(2)遺留分額

上記によって算出した額に、「遺留分をご存知ですか?」のページでご説明させていただいた個々人の遺留分割合、つまり全体の遺留分割合×法定相続分を掛けると、遺留分額が計算できます。「遺留分をご存知ですか?」のページの例では遺留分額は3000万円でした。


(3)遺留分侵害額

遺留分侵害額は、上記で計算した遺留分額から遺留分権利者が実際に得た財産利益を引けば計算できます。計算式で表すと以下のようになります。

遺留分侵害額=遺留分額-(遺留分権利者が相続によって得た財産額-相続債務分担額)-特別受益額

遺留分権利者が実際に得た利益は、得た財産額から負担した負債額を引いたものになります。なぜなら、財産を得ていても負債を負っていれば負債の分は実質的に利益を得ていないことになるからです。また、すでに特別受益を得ていれば遺産の前渡しを受けていることになり、すでに実際に利益を得ているので、特別受益の額も差し引きます。「遺留分をご存知ですか?」のページの例では遺留分額は3000万円で、実際に利益を得たのは2000万円でしたので、遺留分侵害額は1000万円となります。


3.遺留分侵害額請求の相手方

遺留分侵害額請求の相手方となるのは、生前贈与または遺言による贈与を受けた者です。遺言による贈与には、遺言によって相続人の1人に「相続させる」と書いてあった場合も含まれますので、相続させる財産が遺留分を侵害していれば、その相続人を相手方にできます。

生前贈与と遺言による贈与の両方があるときには、遺言によって贈与を受けた者が先に相手方となります。遺言による贈与の価額が侵害額に足りないときには、足りない分を生前贈与を受けた者に請求できます。

遺言による贈与が複数あるか、生前贈与が複数あってそれらの贈与が同時になされた場合には、贈与を受けた者全員が相手方となり、贈与を受けた財産の価額の割合に応じて侵害額を負担しますが、遺言に別の定めがあればそれに従います。

生前贈与が複数あってそれぞれ異なる時期に贈与がなされた場合には、相続開始時に最も近い贈与を受けた者から先に相手方となります。相続開始時に最も近い贈与の価額が侵害額に足りないときには、足りない分をその前に贈与を受けた者に順番に請求できます。


4.遺留分侵害額請求の行使方法

遺留分侵害額請求権を行使するためには、必ずしも訴えの方法による必要はありません。相手方に請求する意思を表示すればよく、口頭でも構わないのですが、通常は証拠化のために書面で請求します。場合によっては内容証明郵便で請求することもあります。もちろん訴訟で請求することもできますが、原則として先に調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。


5.遺留分侵害額請求権の消滅時効等

遺留分をご存知ですか?」のページに記載したように、遺留分侵害額請求権には、行使できなくなってしまう期間制限があります

1番目は、1年の消滅時効です。起算点は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」で、このときから1年以内に遺留分侵害額請求権を行使しなければ時効によって消滅し、行使できなくなってしまいます。「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った」とは、贈与や遺贈があったことを知るだけではなく、その贈与等が自分の遺留分額を侵害することまで知る必要があるので、相続財産の全体額がわからないために自分の遺留分額が侵害されているかわからない状態では時効は進行しません。

2番目は10年の除斥期間です。起算点は「相続開始の時」であり、「相続開始の時から10年を経過したとき」には、相続の開始を知らなくても行使ができなくなってしまいます。

最後は5年の消滅時効です。これは「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」には時効によって消滅すると規定した民法166条1項1号によるものです。起算点は「債権者が権利を行使することができることを知った時」なので、1番目の1年の消滅時効と同じなのですが、最大の違いは、「行使」とは裁判上の請求を意味することです。したがいまして、内容証明郵便等で行使の意思をすでに相手方へ伝えていたとしても、そのまま5年間裁判を起こさなければ時効によって消滅してしまいます。


6.最後に

以上のとおり、遺留分侵害額請求について詳しめにご説明いたしましたが、実際の事例での遺留分侵害額の計算はかなり複雑になることが多いです。遺留分侵害額請求が行使できなくなってしまう期間はかなり短めなので、遺留分侵害額請求の際には弁護士へのご相談・ご依頼をお勧めいたします。

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