遺産分割しないとどうなる?

「遺産分割をしないで放置しても大丈夫か?」

「遺産分割をしないリスクやデメリットは?」

遺産分割とは?」のページでもご説明させていただいたとおり、遺言がない場合、相続人が遺産を取得するためには遺産分割手続が必要ですが、名義変更などの手続を積極的には行いたくない場合や、相続人間で話し合いがつかず遺産分割ができない場合等、遺産分割をしないことによるリスクやデメリットはあるのでしょうか。このページでは、遺産分割手続をしない場合のリスクやデメリットをご説明させていただきます。

1.相続登記の申請義務化

不動産には登記制度がありますが、従来、遺産分割手続や相続登記がなされないことにより不動産の所有名義が昔のままとなっていることが多くありました。極端な例では、所有名義が明治時代のままとなっていることもあります。このような場合には真の所有者が登記簿上からはわからないため社会問題化し、令和6年4月1日から相続登記が義務付けられることになりました。噛み砕いて述べますと、自分が相続人であることを知った者は遺産に不動産が含まれていることを知ったときから3年以内に相続登記をする必要があり、正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

なお、相続登記の義務化は令和6年4月1日以前に発生した相続にも適用されますし、遺産分割手続が終了していてもその登記を行っていない場合には適用されますので、令和6年4月1日以降はご注意ください。


2.相続開始から10年で特別受益や寄与分の制度が利用できなくなる

亡くなられた方の生前に相続人の1人が婚姻や生計の資本としてすでに贈与を受けている場合、他の相続人との公平のために、その贈与を相続分の前渡しとして相続分を計算する制度があります。これを特別受益と言い、すでに贈与を受けた相続人の相続分は他の相続人より少なくなります。

また、相続人の中に亡くなられた方の財産の維持または増加に特別の寄与をした者がいる場合、その寄与を評価しなければ他の相続人との公平が保たれないため、特別の寄与をした者の相続分を他の相続人より増やす制度があります。これを寄与分と言います。

特別受益も寄与分も、相続開始から10年が経過した場合、制度を利用することができなくなります。つまり、特別受益や寄与分の制度により相続分を増やしたい場合には、相続開始から10年以内に遺産分割を成立させるか、少なくとも10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割請求する必要があります。


3.遺産分割未了の間は相続税等の減額制度が使えない

(1)相続税の配偶者控除

亡くなられた方の配偶者が遺産を相続する場合、配偶者が相続する財産の課税価格が1億6000万円以下であるか、法定相続分の範囲内であれば、相続税の配偶者控除を利用することにより配偶者の相続税は無税になります。

しかし、申告時までに遺産分割が完了しなければこの特例は受けられません。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを相続人が知った翌日から10か月以内ですので、10か月以内に遺産分割が完了しない場合、法定相続分で計算した相続税を遺産分割未了のままで仮申告・仮納付することになります。

この仮申告・仮納付においては配偶者控除の特例が受けられず、物納もできないので、配偶者は法定相続分に従った相続税額を、一度、現金で納付する必要があります。配偶者控除により本来であれば支払う必要がなかった金額については、仮申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、申告期限から3年以内に遺産分割を完了させた上で更正請求すれば還付されます。

なお、3年以内に遺産分割が完了しなかったとしても、遺産分割調停中や訴訟中などのやむを得ない事情があれば、税務署長の承認のもと、還付される可能性があります。

したがいまして、配偶者控除により、本来、相続税を支払う必要がない場合であっても、10か月以内に遺産分割が完了しなければ、法定相続分に従った相続税額を仮に現金で納付しなければならないため、デメリットとなります。また、申告期限から3年以上遺産分割の調停等を行わなかった場合には、配偶者控除が適用できなくなるため、支払済みの相続税の還付さえもできなくなります。


(2)相続税の小規模宅地等の特例

亡くなられた方が住んでいた建物及びその敷地があり、亡くなられた方と同居していた子が敷地を相続する場合、相続税を計算する際に敷地の評価額を80%減額できる制度があります(限度面積は330㎡)。これを小規模宅地等の特例と言います。例えば、相続税評価額が1億円の土地の場合、この特例を使えば2000万円として相続税を計算できます。

小規模宅地等の特例も、前記の配偶者控除と同じく、遺産分割未了であれば適用されません。


(3)譲渡所得税の取得費加算の特例

相続によって取得した財産を、相続開始後3年10か月以内に売却した場合には、支払った相続税額の一部を取得費に加算することにより譲渡所得にかかる所得税を軽減できる制度があります。財産を相続によって取得するためには遺産分割が必要ですから、相続開始後3年10か月以内に売却するためには同期間内に遺産分割を完了させる必要があります。したがいまして、相続開始後3年10か月以内に遺産分割ができない場合にはこの制度は使えないことになります。


4.遺産分割が複雑になる

遺産分割をしないうちに相続人が死亡した場合、さらに相続が発生します。その結果、相続人の数がどんどん増えていく可能性がありますし、相続人の相続人、つまり孫世代には親世代のしがらみがないので、権利主張が激しくなる可能性があります。すると、遺産分割はどんどん複雑になり、合意が難しくなります。


5.最後に

以上のように、遺産分割を放置することには様々なリスクやデメリットがあります。特に、遺産の課税価格が相続税の基礎控除額を超える場合には相続税の申告が必要ですので、相続税の減額制度を利用したい場合には、申告期限である10か月以内に遺産分割を終わらせるか、少なくとも申告期限から3年以内に遺産分割調停等を申し立てることをお勧めいたします。

keyboard_arrow_up

0752555205 問い合わせバナー 法律相談のインターネット予約