遺産分割の前提問題 ー 相続人の範囲

遺産分割の前提となる「相続人の範囲」と戸籍の記載

遺産分割とは、亡くなった方の遺産を相続人全員で分ける手続です。しかし、具体的な分割割合や分割方法の話し合いに入る前に、まず解決しておかなければならない「前提問題」が生じることがあります。その代表例が、誰が遺産を受け取る資格を持つのかという「相続人の範囲」の確定です。

遺産分割協議は、法律上の相続人全員が参加しなければ無効となります。相続人の範囲は民法で定められており、通常は被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取り寄せることで明らかになります。ところが実務においては、まれに戸籍の記載が実際の身分関係と異なっているケースに直面することがあります。

具体的には、本人の知らない間に婚姻届や離婚届が勝手に出されている場合や、他人の子どもを自分の子どもとして虚偽の出生届を出している場合などです。このように血縁や当事者の意思に基づかない届出がなされていると、戸籍上は配偶者や子として記載されていても、法律上の親子関係が存在しない、あるいは夫婦関係が認められないといった深刻な問題が生じます。

相続人の資格に争いがある場合の手続と実務上の対処法

戸籍の記載が実際の身分関係と異なる場合、その人物に相続人としての資格があるかどうかについて「当事者間に争いがあるか否か」で進めるべき手続が大きく異なります。

戸籍の記載と実際の身分関係が異なる場合の手続の流れ(人事訴訟と相続放棄の比較図)

まず、相続人としての資格に争いがある場合には、遺産分割調停や審判の中でそのまま解決することは原則としてできません。遺産分割を進める前に、家庭裁判所での調停や人事訴訟を通じて、前提となる身分関係を法的に確定させることが先決となります。具体的には、夫婦関係であれば「婚姻無効確認」や「離婚無効確認」、親子関係であれば「親子関係存否確認」などの調停・訴訟を行う必要があります。これらの手続は高度な法的知識と証拠収集が求められるため、弁護士へ依頼して進めるのが現実的です。

一方で、戸籍に事実と異なる記載があっても、「その人物が実際には相続人でないこと」について当事者全員に争いがないケースもあります。この場合は、戸籍上記載されている人物に家庭裁判所で相続放棄をしてもらうという実務上の解決策が有効です。適法に相続放棄がなされれば、初めから相続人ではなかったとみなされるため、時間と労力のかかる人事訴訟等を経ることなく、本来の相続人だけで速やかに遺産分割手続を進めることができます。

ただし、相続放棄の申述は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内という短い期間内に行わなければなりません。不測の事態に備え、選択肢を狭めないためにも、相続が発生したら可能な限り早期に戸籍を取り寄せて相続人調査に着手することが極めて重要です。なお、相続手続全般の全体像については、【相続(遺産分割、相続放棄)】で体系的に解説しています。

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