DNA鑑定と親子関係不存在確認訴訟

DNA test report on a desk with a wooden stamp reading '親子関係' (parent-child relationship) beside a magnifying glass and stacked books.

DNA鑑定だけでは法律上の親子関係は覆せない

「DNA鑑定で血縁関係がないと判明した」場合、戸籍上の親子関係も自動的に解消されると考える方がいるかもしれません。しかし、法律上の親子関係は、DNA鑑定の結果だけで当然に変更されるものではありません。結論から申し上げると、科学的な鑑定結果だけでは、法律上の親子関係を覆すことはできません。

日本の法律は、生物学上の真実(血縁関係)もさることながら、「子の身分関係の法的安定」を極めて重視しています。つまり、子どもが安定した環境で成長できるよう、一度成立した親子関係を簡単には覆せないように設計されているのです。そのため、戸籍上の親子関係を解消するには、家庭裁判所で「親子関係不存在確認訴訟」や「嫡出否認の訴え」といった法的な手続きを踏むことが不可欠となります。

親子関係を左右する「嫡出推定」とは?

なぜDNA鑑定だけでは親子関係を覆せないのか。その根幹には、民法第772条に定められた「嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)」という強力なルールが存在します。これは、子の父親が誰であるかを早期に確定し、子の身分を安定させるための制度です。

具体的には、以下のような子どもは、法律上、夫の子と推定されます。

  • 婚姻中に妻が妊娠した子
  • 婚姻前に妊娠し、婚姻成立後に生まれた子
  • 婚姻成立の日から200日を経過した後に生まれた子
  • 離婚の日から300日以内に生まれた子。ただし、母が再婚した後に生まれた場合は、出生の直近の婚姻における夫の子と推定されます。

かつて、ある芸能人の訴訟が話題となりましたが、そこでは子どもが婚姻からちょうど200日目に生まれていました。改正前の民法では、この「1日」が手続選択に大きく影響することがありました。旧法下では、婚姻成立の日から200日を経過した後に生まれた子について婚姻中に懐胎したものと推定されていたため、200日目に生まれた子については嫡出推定が及ばないと判断される余地がありました。もっとも、2024年4月1日施行の改正民法では、婚姻前に懐胎し婚姻成立後に生まれた子も夫の子と推定されるため、現在の事案では改正後の規定を前提に検討する必要があります。このように、法律上の親子関係は、まず「嫡出推定」が及ぶかどうかで、その後の手続きが大きく変わってくることを知っておく必要があります。なお、2024年の民法改正では、女性の再婚禁止期間の廃止に伴い、離婚後300日以内に生まれた子でも、母が再婚していれば再婚後の夫の子と推定されるといった見直しも行われました。

親子関係を争う2つの手続きと2024年民法改正

嫡出推定が及ぶかどうかによって、あなたが採るべき法的手続きは「嫡出否認の訴え」と「親子関係不存在確認の訴え」の2つに分かれます。この2つの違いを理解することが、適切な手続きを選択する前提になります。

2024年4月1日に施行された改正民法は、特に「嫡出否認の訴え」に大きな変更をもたらしました。これまで期間制限により手続を取りにくかった方にとって、重要な改正点が含まれています。家庭裁判所での手続き全般については、離婚や相続などの家事調停の流れで体系的に解説しています。

原則的な手続き「嫡出否認の訴え」

嫡出推定が及ぶ子どもとの親子関係を否定するための、原則的な手続きです。DNA鑑定で血縁がないことが判明した場合、ほとんどのケースはこちらの手続きによることになります。

2024年の民法改正で、この制度は大きく変わりました。

  • 期間制限の延長:訴えを起こせる期間が、従来の「子の出生を知った時から1年以内」から「3年以内」に大幅に延長されました。
  • 提訴権者の拡大:訴えを起こせる人が、従来の「夫」のみから、「夫・子・母」(※母については子の利益を害さないなど一定の要件あり)に拡大されました。

この改正は、子の出生の経緯を知った子が自ら訴えを起こすことや、一定の要件の下で母が訴えを起こすことが可能になった点に意義があります。しかし、「3年」という厳格な期間制限があることに変わりはなく、この期間を過ぎると原則として親子関係を争えなくなるため、注意が必要です。

例外的な手続き「親子関係不存在確認の訴え」

一方で、そもそも嫡出推定が及ばない、または及ばないと考えられる例外的な状況で親子関係を争うのが「親子関係不存在確認の訴え」です。この手続きには期間制限がありません。

ただし、これが認められるのは、「妻が夫の子を妊娠する可能性がなかったことが外観上明白な場合」に限られます。具体的には、夫が長期の海外赴任中、服役中、あるいは夫婦が完全に別居しており、性的交渉を持つ機会がなかったことが客観的に明らかなケースなどが該当します。こうした事情は、将来の遺産分割の前提問題にもなりうるため、極めて厳格に判断されます。単なる家庭内不和やセックスレスといった理由だけでは、通常認められません。

嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴えの違いを比較した図解。対象、提訴できる人、期間制限、ポイントをそれぞれ解説。

【重要判例】DNA鑑定で親子でないとされても覆せないケース

「嫡出否認の訴えの期間(3年)を過ぎた後でも、親子関係を争えるのか」を考える上で、重要な最高裁判例があります(最高裁平成26年7月17日判決)。

この事案では、嫡出否認の訴えの期間(当時は1年)が過ぎた後に、夫が親子関係不存在確認の訴えを提起しました。DNA鑑定では、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが明らかになっていました。しかし、最高裁は夫の訴えを退けたのです。

その理由は、「子の身分関係の法的安定を著しく害する」というものでした。たとえDNA鑑定という科学的真実があったとしても、嫡出否認の期間を過ぎた後にまで親子関係を覆せるようにしてしまうと、子どもの生活が根底から覆され、多大な精神的苦痛を与えることになりかねない。法律は、その不利益を重く見たのです。

2024年の民法改正で嫡出否認の期間が3年に延長されましたが、この判例の考え方そのものが否定されたわけではありません。つまり、改正後の現在においても、嫡出否認の訴えを提起できる3年間を過ぎてしまえば、たとえDNA鑑定で血縁がないと証明されても、原則として法律上の親子関係を覆すことはできない、という点に注意が必要です。これは、遺産分割後に認知が成立した場合など、身分関係の変動が他の法律関係に与える影響の大きさを考慮した結果と言えるでしょう。

参照:法務省:民法等の一部を改正する法律について

親子関係が争いになった場合の注意点

離婚事件や相続事件のご依頼を受けていると、親子関係の確認が争点となるケースに直面することがあります。DNA鑑定という科学技術が進歩した現代においても、法律上の親子関係は極めて繊細で複雑な問題です。

今回の解説でお伝えしたかった重要な点は2つです。

  1. 嫡出否認の訴えには「3年」という厳格な期間制限があること。この期間を過ぎると、親子関係を覆す道は極めて困難になります。もし少しでも疑念があるのなら、決して放置せず、早期に行動を起こすことが肝要です。
  2. ご自身のケースがどちらの手続きに該当するかの判断は、専門家でなければ難しいこと。「嫡出推定が及ばない明白な事情」の有無は、法的な観点から慎重に判断されるべきであり、自己判断は大変危険です。

親子関係の問題は、感情的な対立も激しくなりがちです。当事務所は、法律の専門家として、あなたの状況を冷静に分析し、事案に応じた適切な方針をご提案します。一人で抱え込まず、まずはご相談ください。ご相談料や弁護士費用についても丁寧にご説明いたします。

DNA鑑定の結果を前に法律事務所で深く悩む男性。親子関係の問題で専門家への相談が必要であることを示唆している。

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