遺言信託について

信託銀行でも遺言執行を断る?知っておきたい辞退・辞任のリスク

大切な財産を円滑に引き継ぐため、遺言書の作成を検討されている方も多いのではないでしょうか。その際、信頼できる遺言執行者として、大手信託銀行の「遺言信託」サービスを思い浮かべるかもしれません。「信託銀行に任せておけば万全だ」という安心感は、確かに大きな魅力でしょう。

しかし、相続開始時に信託銀行が遺言執行者への就任を辞退するケースがあります。遺言の作成から執行までを信託銀行に依頼していても、いざ相続が開始した際に、信託銀行が遺言執行者への就任を辞退したり、一度引き受けた後に辞任したりすることがあるのです。これは、遺言者の方の想いを実現する上で、非常に大きなリスクとなり得ます。場合によっては、家族信託といった他の選択肢を検討する必要も出てくるかもしれません。

信託銀行が遺言執行を辞退・辞任する主な理由

最大の要因は「相続人間の紛争」

信託銀行が遺言執行から手を引く最も大きな理由は、相続人間での「紛争」の発生、あるいはその可能性が高いと判断した場合です。

遺言は、相続トラブルを防ぐために作成するものですが、残念ながらすべての紛争を未然に防げるわけではありません。例えば、遺言の内容に納得できない相続人が「遺言は無効だ」と主張したり、遺留分を侵害されているとして金銭の支払いを求めたりするケースは少なくありません。こうした具体的な争いに発展してしまうと、信託銀行は遺言執行業務を続けることが難しくなってしまうのです。

遺言書を法的に有効なものとして作成することは大前提ですが、それでも相続人間の感情的な対立が紛争につながることは十分に考えられます。より詳しい遺言の有効性については、「遺言の日付に関する判例」もご参照ください。

信託銀行と弁護士の遺言執行における役割の違いを示した図解。相続で紛争が発生した場合、信託銀行は辞退するが、弁護士は交渉や法的手続きで解決できることを示している。

法的な制約:紛争解決は弁護士の独占業務

なぜ信託銀行は、紛争が発生すると業務を続けられないのでしょうか。それは「無責任だから」というわけではなく、法律による明確な制約があるからです。

弁護士法第72条では、弁護士以外の者が報酬を得る目的で、法律事件に関して代理や仲裁といった「法律事務」を行うことを禁止しています。これは「非弁活動の禁止」と呼ばれるルールです。相続人間の紛争解決は、まさにこの法律事務にあたります。

信託銀行は金融の専門家ではありますが、法律の専門家ではありません。そのため、法律で禁止されている紛争解決業務を行うことができないのです。これは、弁護士と司法書士、行政書士との違いと同様に、専門家ごとに法律で定められた業務範囲が存在するためです。

参照:弁護士法

もし辞退されたら?その後の手続きと弁護士への依頼という選択肢

相続の全体像については、相続(遺産分割、相続放棄)で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。

遺言執行者が不在になった場合の手続き

信託銀行に辞退・辞任されてしまい、遺言執行者がいなくなってしまった場合、相続手続きは停滞してしまいます。このような状況では、相続人などの利害関係者が家庭裁判所に対し、「遺言執行者の選任」を申し立てる必要があります。しかし、この申立てには手間と時間がかかり、相続人にとって大きな負担となりかねません。

紛争解決の専門家である弁護士に任せるメリット

相続人間の対立が予想される、あるいはすでに発生してしまった状況では、紛争対応が可能な弁護士への相談が選択肢となります。

弁護士は、法律事件に関する代理や和解交渉などを業務として取り扱うことができる専門家です(ただし、弁護士が遺言執行者である場合でも、正当な事由があるときは家庭裁判所の許可を得て辞任することがあります)。

また、遺言書を作成する段階から弁護士に相談することで、将来起こりうる紛争を予測し、それを未然に防ぐための条項を盛り込むといった対策も可能です。相続分野に注力している弁護士かどうかを含め、紛争対応まで見据えた専門家選びが重要です。

まとめ:遺言作成は将来の紛争も見据えた専門家選びが重要

信託銀行の遺言信託は便利なサービスですが、相続人間の紛争には対応できないという大きな限界があります。「万が一」の事態が発生した際に、遺言執行者が不在となり、かえって手続きが複雑化してしまうリスクを理解しておくことが大切です。

遺言者の意思をできるだけ円滑に実現するためには、単に手続きを代行するだけでなく、将来の紛争リスクも踏まえて対応できる専門家を選ぶことが重要です。特に、少しでも相続トラブルの可能性がある場合には、最初から紛争解決のプロである弁護士に相談することをお勧めします。具体的な作成手順については、「遺言公正証書の作成手順」をご覧ください。

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