遺産分割審判の対象となる遺産の3つの大原則
遺産分割協議がまとまらない場合、最終的には家庭裁判所の「遺産分割審判」という手続きで分割方法を決めることになります。しかし、審判手続きは万能ではなく、裁判所が判断の対象とする遺産には厳格なルールが存在します。
その大原則とは、「相続開始時に存在し、かつ、分割時にも存在し、未分割である遺産」のみが対象となる、という点です。つまり、この3つの要件を一つでも満たさない財産は、原則として遺産分割審判の対象にすることはできません。
例えば、被相続人の生前や死後に預金が引き出され、その行方が分からないといったケースでは、この原則により、遺産分割審判で扱うことが難しくなります。ご自身の状況がどの原則に抵触する可能性があるのかを把握することが、問題解決の第一歩となります。なお、生命保険金のように受取人が指定されている財産は、そもそも遺産分割の対象外となる点も注意が必要です。
【ケース1】相続開始時に存在しない遺産
一つ目の原則は「相続開始時に存在すること」です。これは、被相続人が亡くなった瞬間に、その方の名義であった財産を指します。
典型的な問題は、被相続人の生前に特定の相続人によって預貯金が引き出されていたケースです。
【弁護士の視点】
例えば、被相続人の介護をしていた相続人が、亡くなる直前に預金などを引き出していたとします。この場合、引き出された預金は「相続開始時」には既に存在しないため、遺産そのものではなくなります。法的に見ると、これは遺産ではなく、引き出した相続人に対する「不当利得返還請求権」や「損害賠償請求権」という別の権利として問題になります。
遺産分割審判は、あくまで現存する遺産の分け方を決める手続きです。そのため、引き出した相続人が自発的に遺産へ戻すことに同意しない限り、この金銭問題は審判の対象外となり、別途「訴訟」を提起して解決を図る必要があります。
このように、生前の引き出しは預貯金の遺産分割を複雑化させる大きな要因となります。

【ケース2】遺産分割時に存在しない遺産
二つ目の原則は「遺産分割時にも存在すること」です。これは、相続が開始してから、実際に遺産分割の審判手続きが終了するまでの間、財産が現存していることを意味します。
ここで問題となるのは、被相続人の死後、遺産分割が終わる前に特定の相続人が遺産を使い込んだり、預金を引き出したりするケースです。
【弁護士の視点】
相続開始後、他の相続人に無断で預金を引き出した場合、その財産は「分割時に存在しない」ことになります。この場合も、引き出した本人が返還に同意しない限り、原則として遺産分割審判の対象にはなりません。生前の引き出しと同様、別途訴訟を提起して取り戻す必要があります。
ただし、この点については法改正により例外が設けられています。2019年7月1日に施行された改正民法(906条の2)により、共同相続人全員の同意があれば、死後に引き出された預貯金も遺産に含めて分割内容を審判で決めてもらうことが可能です。また、共同相続人の一人が処分した場合、その処分をした相続人の同意は不要とされています。
とはいえ、処分した相続人を除く共同相続人の同意を得られない場合や、誰が処分したのかに争いがある場合には、訴訟による解決が必要となるケースもあります。預金の分割については、このような複雑なルールが存在することを理解しておく必要があります。
参照: 民法 | e-Gov 法令検索

遺産分割審判で判断してもらえない場合の対処法
これまで見てきたように、遺産分割審判はすべての相続トラブルを解決できる手続きではありません。特に、相続財産の生前・死後の引き出しや使い込みが疑われるケースでは、審判の対象から外れてしまうことが多々あります。
審判の対象外とされた財産の問題を解決するためには、「不当利得返還請求訴訟」や「損害賠償請求訴訟」といった、遺産分割審判とは全く別の民事訴訟を提起する必要があります。訴訟では、審判よりも厳格な証拠に基づいて、金銭の動きやその正当性を主張・立証していかなければなりません。
ご自身のケースが審判で扱えるのか、それとも訴訟を起こすべきなのか。この判断は、法的な専門知識がなければ極めて困難です。また、手続きを誤れば、解決までの時間と労力が余計にかかってしまうリスクも否定できません。
遺産分割協議が整わず、審判や訴訟を視野に入れているのであれば、まずは一度、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。事実関係を整理し、法的な見通しを立てた上で、事案に応じた解決策をご提案いたします。

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