財産分与の株式・投資信託評価における2つの「基準日」
離婚時の財産分与において、株式や投資信託といった価格が変動する資産の評価は、多くの方が頭を悩ませる問題です。特に重要なのが「いつの時点の価格で評価するのか」という基準日の設定ですが、ここで多くの方が誤解しがちな点があります。それは、「財産分与の対象範囲を決める基準日」と「その財産の評価額を決める基準日」は、原則として異なるということです。
この2つの基準日を明確に区別して理解することが、公正な財産分与を実現するための第一歩となります。財産分与の全体像については、財産分与請求の基本で体系的に解説しています。
①対象を決める基準日:別居日
財産分与の対象となる資産の範囲を確定させる基準日は、原則として「別居日」とされます。なぜなら、財産分与とは「夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産」を公平に分配する制度だからです。
法的には、別居を開始した時点で夫婦の協力関係は実質的に終了したとみなされます。したがって、別居日時点に存在していた株式や投資信託が共有財産として分与の対象となり、別居後に一方の給与などで購入した資産は、原則として財産分与の対象外(特有財産)となります。このように、婚姻中に形成された財産とそうでない特有財産を明確に分けるために、別居日が基準となるのです。

②評価額を決める基準日:離婚時(口頭弁論終結時)
一方、分与対象となる株式や投資信託の価値(評価額)を算定する基準日は、原則として「離婚時(裁判の場合は口頭弁論終結時)」とされます。これは、分与を行う時点での価値で清算することが、当事者双方にとって最も公平であるという考え方に基づいています。
株式や投資信託の価格は日々変動します。もし別居時の古い価格を基準にしてしまうと、その後の価格変動によって一方だけが大きな利益を得たり、あるいは損失を被ったりといった不公平な結果が生じかねません。例えば、別居時に100万円だった株式が離婚時に200万円に値上がりしていた場合、別居時の価格で分けると、株式を取得した側が100万円分の利益を独占してしまいます。
こうした不公平を避けるため、裁判実務においても、財産を分ける時点に最も近い「口頭弁論終結時」の時価が評価の基準として採用されるのが一般的です。
【実践】株式・投資信託の評価額を計算する3ステップ
基準日の考え方を理解した上で、実際に株式や投資信託の評価額を算出する手順を3つのステップに分けて具体的に解説します。
Step1:基準日(別居日)時点の「株数・口数」を確定する
まず、財産分与の対象となる「量」を確定させます。これは、基準日である「別居日」時点で保有していた株式の数(株数)や投資信託の口数です。
この株数・口数は、証券会社から定期的に送付される「取引残高報告書」で正確に確認できます。別居日を含む期間の報告書を取り寄せ、記載されている保有数量を正確に把握してください。ここで確定した数量が、後の評価額計算の基礎となります。
繰り返しになりますが、株数や口数は別居日時点の数量を使い、その単価(株価・基準価額)は離婚時の価格を使う、という点が極めて重要です。この原則を理解していれば、2026年4月1日に施行された財産分与制度の改正後も、基本的な考え方として応用できるでしょう。

Step2:評価日(離婚時)の「株価・基準価額」を調べる
次に、評価の基準となる「単価」を調べます。これは、「離婚日」や「口頭弁論終結日」といった評価日の価格です。
- 上場株式の場合:評価日の「終値」を、証券会社のウェブサイトや各種金融情報サイトで確認します。
- 投資信託の場合:評価日の「基準価額」を、運用会社のウェブサイトなどで確認します。
なお、非上場株式の場合は市場価格が存在しないため、会社の純資産や収益性などを基に専門的な評価が必要となります。この場合は、公認会計士や税理士といった専門家の協力が不可欠です。
Step3:「株数/口数」×「株価/基準価額」で評価額を算出する
最後に、Step1で確定した「数量」とStep2で調べた「単価」を掛け合わせ、評価額を算出します。
【計算例】
- 株式:
別居時の保有株数 1,000株 × 離婚時の株価 2,500円 = 評価額 250万円 - 投資信託:
別居時の保有口数 50万口 × 離婚時の基準価額 12,000円(1万口あたり) ÷ 10,000 = 評価額 60万円
このように算出された評価額を基に、原則として2分の1の割合で分与することになります。たとえ不貞行為などを行った有責配偶者からの財産分与請求であっても、この計算ルール自体は基本的に変わりません。
株式・投資信託の評価に関するよくある質問
ここでは、実務上よくご相談いただく質問についてお答えします。
Q. 別居後に株価が暴落(または高騰)しました。評価額は調整されますか?
原則として調整されません。離婚時(口頭弁論終結時)の時価で評価するということは、価格変動のリスクも利益も夫婦双方が公平に負担すべきという考え方が根底にあるからです。
ただし、ごく例外的なケースとして、別居時と離婚時の価格の差が非常に大きい場合に別居時と離婚時の価格を平均するなど、評価額が調整される可能性もゼロではありません(広島高裁岡山支部平成16年6月18日判決など)。しかし、これはあくまで例外的な措置とご理解ください。
Q. NISAやiDeCo口座の資産も同じように計算しますか?
基本的な評価の考え方は共通しますが、iDeCoについては制度上の制約も踏まえて検討する必要があります。
NISA(少額投資非課税制度)は税制上の優遇措置がある投資制度であり、iDeCo(個人型確定拠出年金)は確定拠出年金法に基づく私的年金制度です。その口座内で保有している株式や投資信託が、婚姻期間中に夫婦の協力によって得た資金で購入されたものである限り、財産分与の対象となる共有財産であることに変わりはありません。
したがって、評価の基準日や計算方法も、これまで解説してきたステップと全く同様に進めることになります。特にiDeCoは年金としての性格も持ちますが、離婚時の財産分与においては、婚姻期間中の拠出分は金融資産として清算の対象となるのが実務上の一般的な扱いです。

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