破産と賃貸借契約

Person inside a warmly lit window looking out at a rainy city street at night.

自己破産を理由にアパートを追い出されることはありません

借金問題で自己破産を検討する際、「今住んでいる家を追い出されてしまうのではないか」という不安は、生活の基盤を揺るがす深刻な問題です。しかし、まず結論から申し上げます。自己破産したという理由だけで、現在お住まいのアパートやマンションから一方的に退去を求められることは、原則としてありません。

かつての民法には、賃借人が破産宣告(現在の破産手続開始決定)を受けた場合に賃貸人が解約の申入れをできる旨の規定(旧民法621条〔賃借人破産時の解約申入れ〕)が存在しました。しかし、この規定は破産法の抜本改正に伴い削除されています(2005年1月1日施行)。これは、賃借人の居住の権利をより強く保護しようとする法的な要請の表れであり、現在は破産という手続き上の事実のみをもって賃貸借契約を解除することは認められていないのです。

したがって、賃貸借契約書にどのような記載があったとしても、法律があなたの居住権を保護しているという事実をまずご理解ください。借金問題の全体像については、債務整理(破産、任意整理、個人再生、過払金)で体系的に解説しています。

「破産による解除条項」を無効とした大阪高裁の重要判決

多くの賃貸借契約書には、「賃借人が破産手続開始の申立てをしたとき、または破産手続開始の決定を受けたときは、賃貸人は催告を要することなく本契約を解除することができる」といった趣旨の条項(解除特約)が含まれています。この一文が、多くの方を不安にさせる元凶と言えるでしょう。

しかし、この条項の有効性が争われた裁判において、司法は賃借人を保護する明確な判断を示しました。その代表例が、大阪高等裁判所 平成25年10月17日判決です。

賃貸借契約の破産による解除条項に関する裁判所の判断を図解。契約書の条項は原則無効であり、破産の事実だけでは信頼関係は破壊されないという司法判断が示されている。

この判決は、たとえ契約書に破産を理由とする解除条項があったとしても、賃借人が破産手続開始決定を受けたという事実だけでは、賃貸人との間の信頼関係が直ちに破壊されたとはいえないとして、この解除条項を無効と判断しました。つまり、「破産した」という事実と、「家賃を支払う」という賃借人としての義務を果たすことは別問題である、と切り分けたのです。

この重要な判断は、最高裁判所においても上告受理申立てが受理されないなどして、平成27年3月3日付で大阪高裁判決が確定しています。これにより、「破産のみを理由とする契約解除は認められない」という考え方は、法的に確立されたものとなりました。

参照:消費者支援機構関西「後見や破産等を理由とする契約解除は消費者契約法により無効賃貸住宅事業者(株)明来に差止め命じた大阪高裁判決が確定」

唯一の注意点:家賃の滞納がある場合

では、どのような場合でも退去させられないのでしょうか。注意すべき点が一つだけあります。それは「家賃の滞納」です。

契約解除の原因となるのは、自己破産という事実そのものではなく、家賃を支払わないという契約違反(債務不履行)です。これは、自己破産をする・しないに関わらず、賃貸借契約における最も基本的な義務であり、この義務が果たされない場合には、大家さんは契約を解除する正当な権利を持ちます。

重要なのは、この2つを明確に区別して理解することです。

  • 自己破産という事実 → 契約解除の理由にはならない
  • 家賃滞納という事実 → 契約解除の正当な理由になる

したがって、これまでどおり家賃をきちんと支払い続けている限り、契約書に前述のような解除条項があったとしても、心配する必要はありません。もし経済的に厳しい状況であっても、家賃だけは支払い続けることが、住まいを守る上で極めて重要となります。自己破産すべきかどうかの判断に迷う場合も、まずは専門家にご相談ください。

まとめ:家賃を払っていれば、破産しても住み続けられます

この記事の要点を改めて整理します。

  • ポイント1:自己破産手続きを開始したことだけを理由に、大家さんから一方的に退去を要求されることは法的に認められません。
  • ポイント2:契約書にある「破産による解除条項」は、高裁の判断も経て、無効であるとする考え方が確立しています。
  • ポイント3:ただし、家賃を滞納した場合は契約違反となり、それを理由に契約を解除される可能性はあります。

借金問題と住居の不安が重なると、精神的な負担は計り知れません。しかし、法的な知識があれば、不要な心配をせずに済み、冷静な判断ができます。もし債権者からの督促にお悩みで、ご自身の状況でどうすべきか判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、専門家である弁護士にご相談ください。あなたの生活再建を法的な側面からサポートします。

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