相続放棄後も自宅に住める?居住の可否と管理義務を解説

Person standing in a dim living room at sunset, holding a set of keys beside stacked moving boxes.

相続放棄をすると自宅に住み続けるのは難しい

亡くなった方(被相続人)の借金が多額である場合、相続放棄は有効な手段です。しかし、被相続人のご自宅に同居していた方にとって、「この家に住み続けられるのか」という問題は非常に切実でしょう。

結論から申し上げますと、相続放棄をした場合、原則としてそのご自宅に住み続けることはできません。相続放棄をした場合、ご自宅の所有権を相続しないため、所有者(他の相続人等)から明渡しを求められれば退去が必要となることが多いです。相続放棄とは、プラスの財産(不動産や預貯金など)もマイナスの財産(借金など)も、その一切を相続しないという法的な手続きです。

ただし、相続放棄をすれば即座に退去を命じられるわけではありません。法的な義務や手続きを正しく理解し、計画的に行動することが重要です。もし、相続財産(家財道具など)を安易に処分してしまうと、法定単純承認(民法921条)に該当し、結果として相続放棄ができなくなるおそれがあります。

【2023年民法改正】相続放棄後の「保存義務」とは?

相続放棄後も、一定の条件下ではご自宅に対する法的な責任が残ります。この点について、2023年4月1日に施行された改正民法が重要な意味を持ちます。

改正後の民法第940条では、相続放棄をした人に課される義務が、従来の「管理義務」から「保存義務」へと変更されました。そして、この義務を負うのは「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」人に限定されたのです。

「現に占有している」とは、具体的には以下のような状況を指します。

  • 被相続人と同居していた
  • 別居していたが、家の鍵を管理し、自由に出入りできる状態にあった

この保存義務は、家を次の相続人や、後述する「相続財産清算人」に引き渡すまで続きます。ただし、求められる注意の程度は「自己の財産におけるのと同一の注意」とされており、過度に厳しいものではありません。あくまで、財産の価値を維持するために最低限必要な保存行為が求められる、とご理解ください。

保存義務を怠った場合のリスク

では、この保存義務を怠るとどのようなリスクがあるのでしょうか。例えば、家の老朽化に気づきながら放置し、屋根瓦が落下して隣人や通行人に怪我をさせてしまった場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。また、空き家となったご自宅の管理を怠った結果、不法侵入されたり、放火されたりといった犯罪の温床になるケースも考えられます。

このような事態を避けるためにも、保存義務の内容を正しく理解し、適切に対応することが不可欠です。

相続財産清算人に自宅の鍵を引き渡し、管理義務から解放されようとしている様子。

例外的に住み続けられるケースと最終的な対処法

原則として退去が必要ですが、例外的なケースや、保存義務から解放されるための最終的な手段も存在します。

まず、被相続人の配偶者であった場合は「配偶者短期居住権」により、相続放棄をした場合でも、居住建物の取得者から配偶者短期居住権の消滅の申入れがされた日から6ヶ月を経過する日まで、無償でそのご自宅に住み続けられることがあります。

次に、ご自身以外に相続人がいない、あるいは他の相続人全員が相続放棄をしてしまい、家の管理者が見つからない場合です。このままでは、ご自身の保存義務が永遠に続いてしまうことになりかねません。

このような状況を最終的に解決する手段が、家庭裁判所への「相続財産清算人の選任申立て」です。裁判所によって選任された相続財産清算人が、ご自宅を含む財産の管理・清算を行うため、その方に財産を引き継ぐことで、ご自身の保存義務は完全に消滅します。ただし、この申立てには、100万円程度の予納金が必要となる場合がある点には注意が必要です。

相続放棄とそれに伴うご自宅の問題は、法律的な判断が複雑に絡み合います。ご自身の状況で最善の選択をするためにも、お早めに専門家へご相談ください。


参照:法務省「財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)」

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