婚姻費用とは?別居後の生活を守る大切な権利
パートナーとの関係が悪化し、別居や離婚を考え始めたとき、多くの方がまず直面するのが「別居後の生活費はどうなるのだろう」という切実な不安ではないでしょうか。特に、ご自身に十分な収入がない場合、その不安は計り知れないものがあるかと存じます。
しかし、ご安心ください。日本の法律では、たとえ別居していても、離婚が正式に成立するまでの間、夫婦は互いに助け合い、同程度の生活レベルを維持する義務があると定められています。この義務に基づき、収入の多い側が少ない側へ支払う生活費のことを「婚姻費用」と呼びます。
これは、あなたが持つ正当な権利です。婚姻費用は、別居によって経済的に不安定な状況に置かれたあなたの生活を守り、お子様がいる場合にはその健やかな成長を守るための、非常に重要な制度なのです。
本記事のテーマである離婚問題の全体像については、離婚のページで体系的に解説しています。
婚姻費用と「養育費」の決定的な違い
婚姻費用とよく混同されがちなものに「養育費」があります。この二つは、支払われる期間も、含まれる内容も全く異なりますので、正確に理解しておくことが重要です。
- 婚姻費用:離婚が成立するまでに支払われる費用です。内訳は「配偶者の生活費 + お子様の養育費」です。
- 養育費:離婚が成立した後に支払われる費用です。内訳は「子どもの養育費のみ」であり、元配偶者の生活費は含まれません。
つまり、婚姻費用は、離婚後の養育費に加えて、ご自身の生活費も含まれるため、一般的に養育費よりも高額になります。別居期間中の生活の基盤となる大切なお金であることを、まずは認識してください。

婚姻費用の計算方法|算定表の見方と上乗せのコツ
婚姻費用の金額は、夫婦間の話し合いで合意できれば自由に決めることができます。しかし、話がまとまらない場合や、そもそも相場が分からないという場合には、家庭裁判所が公開している「婚姻費用算定表」を基準にすることが実務上一般的です。
この算定表は、夫婦双方の年収、そしてお子様の人数と年齢に応じて、婚姻費用の目安となる金額が分かるように作られています。見方は以下の通りです。
- お子様の人数と年齢に応じた表を選びます。
- 縦軸で支払う側(義務者)の年収、横軸で受け取る側(権利者)の年収を探します。
- 両者が交差する欄に記載されている金額が、婚姻費用の目安となります。
例えば、夫(会社員・年収500万円)、妻(パート・年収100万円)、子1人(5歳)というケースでは、算定表から「月額8〜10万円」が一つの目安となります。この改定標準算定表(令和元年版)は、現在の社会情勢を反映して改定されたものです。

算定表で考慮されない「特別な費用」を上乗せするには?
ここで一つ、非常に重要な点をお伝えします。算定表が示す金額は、あくまで「標準的な生活」を送るための費用を想定したものです。そのため、お子様の私立学校の学費や、高額な治療費、特別な習い事の費用といった「特別な出費」は、原則として含まれていません。
もし、このような特別な費用がかかっている場合、算定表の金額に上乗せして請求できる可能性があります。そのための交渉では、以下の点を具体的に主張することが鍵となります。
- 夫婦間の合意:その支出(例:私立学校への進学)が、夫婦で話し合って決めたことである。
- 支払能力:相手の収入や資産状況からみて、その費用を負担することが不相当ではない。
これらの点を客観的な資料(在学証明書、授業料の領収書、過去のメールのやり取りなど)と共に示すことで、単に「お金が足りない」と主張するよりも、説得力のある交渉が可能になります。
婚姻費用の請求手続と【最重要】注意点
婚姻費用を請求する手続きは、一般的に以下のステップで進みます。
- 当事者間の協議:まずは夫婦間で直接話し合います。ここで合意できれば、最も円満かつ迅速な解決となります。合意内容は必ず書面に残しましょう。
- 内容証明郵便による請求:話し合いに応じない、または合意できない場合、請求の意思を明確にするため内容証明郵便を送付します。これは「いつ請求したか」を公的に証明する重要な証拠となります。
- 家庭裁判所での調停・審判:それでも解決しない場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求調停」を申し立てます。調停委員を介して話し合いを進め、それでも合意に至らなければ、裁判官が一切の事情を考慮して決定を下す「審判」手続に移行します。こうした家事調停の流れについては、事前に理解を深めておくとよいでしょう。
【重要】婚姻費用の始期は「請求の意思を示した時」とされることが多い
この記事で、私が最も強くお伝えしたいのがこの点です。実務上、婚姻費用の始期は「請求の意思を明確に示した時」(例:内容証明郵便の送付時や、婚姻費用分担請求調停・審判の申立時)とされることが多く、請求前の過去分は認められにくい傾向があります。
「いつか話し合おう」「相手も分かってくれるはず」と行動をためらっている間にも、あなたが本来受け取れるはずだった毎月の生活費は、刻一刻と失われ続けているのです。例えば、別居から半年後に調停を申し立てた場合でも、過去分の婚姻費用が認められるかは事案によりますが、請求前の半年分については認められにくい傾向があります。
生活への不安から、相手との対立を恐れるお気持ちは痛いほど分かります。しかし、この事実だけは必ず覚えておいてください。あなたの生活を守るためには、1日でも早く、内容証明郵便の送付や調停の申立てといった具体的な行動を起こすことが何よりも重要なのです。
相手が支払わない場合の最終手段「強制執行」とは
調停や審判で婚姻費用の金額が無事に決まっても、「相手が約束通りに支払ってくれない」というケースは残念ながら少なくありません。そのような場合に備え、法律は「強制執行」という強力な手段を認めています。
これは、相手の給与や預貯金といった財産を直接差し押さえて、未払い分を強制的に回収する手続きです。強制執行を行うためには、調停で作成される「調停調書」や、審判で出される「審判書」といった公的な文書(債務名義)が必要です。また、当事者間の合意を「公正証書」として作成しておくことでも、同様の効力が得られます。
取り決めを単なる口約束で終わらせず、法的な強制力を持つ形で残しておくことが、将来の不払いへの対策として極めて重要です。
まとめ|婚姻費用の請求は、新たな生活への第一歩です
本記事では、別居後の生活を守るための大切な権利である「婚姻費用」について、その意味から計算方法、請求手続までを解説しました。
大切なポイントを改めて確認しましょう。
- 婚姻費用は、離婚成立までご自身の生活費とお子様の養育費を請求できる正当な権利です。
- 金額の目安は、裁判所の「算定表」で確認できますが、特別な事情があれば上乗せ交渉も可能です。
- そして何より、婚姻費用は請求した時からしか発生しません。悩んでいる時間も、あなたの権利は失われ続けています。
婚姻費用の請求は、単にお金を求める行為ではありません。経済的な基盤を確保し、精神的な安定を取り戻して、ご自身とお子様の新たな人生を始めるための、法的にも認められた重要な第一歩です。もし、相手との交渉や手続きの進め方にご不安があれば、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。あなたの再出発を、法的な側面から全力でサポートいたします。

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