建物明渡しの強制執行とは?最終手段としての位置づけ
建物明渡しの強制執行は、賃貸借契約の解除後も賃借人が任意に退去しない場合に、判決などの債務名義に基づき、債権者が執行官に申立てを行い、法的な手続きに従って強制的に物件の明渡しを実現する制度です。訴訟で勝訴判決を得たとしても、賃借人が居座り続けるケースは少なくありません。このような状況において、賃貸人(大家)が取りうる、法律で認められた最終手段が強制執行です。
ここで絶対に避けなければならないのが、賃貸人自身が鍵を交換したり、室内の荷物を無断で運び出したりする「自力救済」です。たとえ賃料滞納という相手方の契約違反があったとしても、こうした行為は住居侵入罪や器物損壊罪といった刑事罰の対象となる可能性があり、法的には一切認められていません。裁判手続きを経ずに権利を回復しようとすることは、かえって賃貸人自身を不利な立場に追い込むことになりかねません。我が国では、建物明渡しを実現するには、判決などの債務名義に基づき、執行官による不動産引渡(明渡)執行の手続で進めることになります。したがって、建物明渡しは、必ず法律に則った強制執行の手続きによって進める必要があります。
建物明渡しの強制執行|手続き全体の流れを3ステップで解説
複雑に見える強制執行の手続きも、大きく分けると3つのステップで進行します。まずは全体像を把握することで、見通しを持って準備を進めることができます。
- ステップ1:強制執行の申立てと執行官との打ち合わせ
- ステップ2:明渡しの催告|執行官が現地で退去を最終通告
- ステップ3:明渡しの断行|強制的に荷物を搬出し物件を確保

各ステップで具体的に何が行われるのかを、順を追って詳しく見ていきましょう。
ステップ1:強制執行の申立てと執行官との打ち合わせ
強制執行を開始するには、まず物件の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対し、申立てを行う必要があります。この際、主に以下の3つの書類が不可欠です。
- 債務名義:強制執行によって実現されるべき請求権の存在と範囲を公的に証明する文書です。(例:建物明渡請求訴訟の判決正本)
- 執行文:その債務名義に執行力があることを公証する文書です。債務名義を取得した裁判所(または公証役場)で付与してもらいます。
- 送達証明書:債務名義が賃借人に送達されたことを証明する文書です。これも債務名義を取得した裁判所で発行されます。
これらの書類を揃えて申立てを行うと、後日、裁判所の執行官と打ち合わせを行います。この打ち合わせでは、催告や断行の具体的な日程調整、そして執行を補助する業者(執行補助者)の選定など、今後の段取りについて協議します。
参照情報として、裁判所が公開している手続きの概要も役立ちます。
参照:裁判所「不動産引渡(明渡)執行の手続き」
ステップ2:明渡しの催告|執行官が現地で退去を最終通告
申立て後、執行官が実際に物件の所在地へ赴き、賃借人に対して退去を求める「明渡しの催告」が行われます。これは、いわば強制退去の最終通告です。
催告当日、現場には執行官のほか、賃貸人(または代理人弁護士)、鍵の専門家、そして荷物の搬出見積もりを行う執行補助業者が同行します。執行官は室内の状況を確認し、占有者が賃借人本人であることを確かめた上で、執行官は、引渡期限(原則として催告日から1か月を経過する日)を告知し、あわせてその間の適宜の日を明渡しの実施予定日(断行実施予定日)として定めます。そして、その旨を記載した公示書を玄関などの目立つ場所に貼り付け、この日までに任意に退去するよう最終的な機会を与えます。
この催告の現場は、単なる告知に留まりません。私たち専門家が立ち会う際、特に注意を払うのは、室内の「物」の確認です。執行補助業者と共に室内を詳細に確認し、賃貸人ご本人にしか分からない「もともと備え付けの設備」と「賃借人が持ち込んだ物」を区別していきます。エアコンがどちらの所有物か、照明器具はどうか。こうした細かな確認が、後の断行作業をスムーズにし、トラブルを防ぐために不可欠なのです。レンタル品が見つかれば業者がレンタル会社に連絡を取るなど、この時点で具体的な搬出計画の検討が始まります。
ステップ3:明渡しの断行|強制的に荷物を搬出し物件を確保
催告で定められた期限を過ぎても賃借人が退去しなかった場合、最終手段である「明渡しの断行」が実行されます。断行日には、執行官の監督のもと、執行補助業者が室内の家財道具や荷物をすべて強制的に搬出します。
作業員が室内にあるものを一つ残らず運び出し、トラックに積み込んでいきます。すべての荷物が搬出され、室内が空になったことを執行官が確認した後、鍵を新しいものに交換します。そして、その新しい鍵が賃貸人に引き渡された瞬間をもって、建物明渡しは法的に完了します。搬出された荷物(目的外動産)は、原則として債務者等に引き渡されますが、引き渡すことができない場合には売却できるとされています。実際の処理(保管の有無・方法等)は事案により異なります。
トラブル回避の鍵「残置物」の正しい処分方法
強制執行において、最も慎重な対応が求められるのが、室内に残された荷物、いわゆる「残置物」の取り扱いです。
賃借人が残していった物であっても、その所有権は依然として賃借人にあります。そのため、賃貸人がこれを勝手に売却したり廃棄したりすることは、法的に許されません。たとえ賃貸借契約書に「残置物の所有権は放棄する」といった特約があったとしても、それを根拠に自力で処分することは危険です。後から「高価なものがあったはずだ」などと損害賠償を請求されるリスクが常に伴います。

法的に正しく残置物を処分するには、必ず執行官の権限のもとで行う必要があります。強制執行の手続きでは、搬出された残置物は、法律上「動産」として扱われます。執行官はこれを差し押さえ、売却(換価)を試みます。価値がなく売却できないものについては、最終的に廃棄処分となりますが、この一連のプロセスはすべて執行官の責任において行われます。ペットが残されていた場合などは、状況に応じて執行官を通じて関係機関へ相談するなどの対応が検討されることがあります。賃貸人が自ら判断し、行動する必要はありません。残置物を巡るトラブルを確実に回避するためにも、法的な手続きを踏むことが唯一の正しい道筋です。
建物明渡しの強制執行にかかる費用|内訳と弁護士への依頼
強制執行を検討する上で、費用の問題は避けて通れません。費用は大きく分けて以下の3つで構成されます。
- 裁判所に納める費用(予納金など)
- 執行補助業者に支払う費用
- 弁護士に依頼する場合の費用
これらの費用は、まず賃貸人が立て替えて支払う必要があります。
費用の内訳と相場は?誰が負担するのか
具体的な費用の内訳と目安は以下の通りです。
- 予納金:執行官手続のために裁判所に予納する費用で、金額は各裁判所・申立内容により異なります。具体的な金額は申立先の執行官室に確認します。
- 執行補助者費用:荷物の搬出・保管・処分にかかる費用です。これは物件の広さや荷物の量に大きく左右され、最も高額になりやすい項目です。ワンルームで20〜40万円、ファミリータイプの物件では60万円以上になることも珍しくありません。
- その他実費:鍵の交換費用(2〜3万円)、交通費、郵便費用などがかかります。
法律上、これらの執行にかかった費用は、本来すべて債務者である賃借人が負担すべきものとされています。しかし、手続き上は債権者である賃貸人が一旦全額を立て替える必要があるのが実情です。
複雑な強制執行は弁護士への相談が賢明な理由
建物明渡しの強制執行は、法律に則った強力な手続きである一方、申立て書類の準備から執行官との折衝、現場での立ち会い、そして費用回収に至るまで、非常に複雑で精神的な負担も大きいものです。
専門家である弁護士にご依頼いただくことで、申立て書類の準備、執行官との調整、当日の立会い対応など、手続全体の負担を軽減できる場合があります。執行補助業者との連携や、現場での不測の事態への対応も、経験に基づき的確に行います。ご事情に応じて、手続対応の負担や不安を軽減できるようサポートいたします。
不動産賃貸経営においては、問題が大きくなる前に手を打つことも重要です。日頃から法的なサポートを受けられる顧問弁護士という選択肢も、安定した経営の一助となるでしょう。強制執行という困難な状況に直面されている方は、一人で悩まず、まずは一度、専門家にご相談ください。

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