養育費のワンストップ執行とは?新制度の概要と限界を弁護士が解説

Gold circular seal with scales of justice and Japanese text, resting on legal documents and old books.

婚姻費用・養育費の「ワンストップ執行」とは?

令和8年(2026年)4月1日施行の改正により、養育費又は婚姻費用分担金について、一定の要件を満たす場合に「養育費等のワンストップ執行手続」が利用できるようになります。この手続は、一定の要件を満たす場合に、勤務先情報の取得(給与債権に係る第三者からの情報取得手続)給与債権の差押えを、地方裁判所への一回の申立てで一体として進められる仕組みです。

従来、相手の勤務先が不明な場合、まず裁判所に「財産開示手続」を申し立て、その後、「第三者からの情報取得手続」を申し立てて勤務先を特定し、さらにその情報をもとに改めて「債権差押命令」を申し立てるという、三段階の手間と時間が必要でした。新制度では、このプロセスが統合され、債権者の手続き的・精神的な負担が大幅に軽減されることが期待されます。長年、未払いの婚姻費用養育費に悩まされてきた方々にとって、非常に強力な選択肢となるでしょう。

養育費のワンストップ執行制度の仕組みを比較する図解。従来の手続きが2ステップ必要なのに対し、新制度では1回の申立てで済むことを示している。

参照:法務省:父母の離婚後等の子の養育に関する法改正(令和8年4月1日施行)

ワンストップ執行の仕組みと流れ

ワンストップ執行の具体的な流れは以下の通りです。

  1. 裁判所への申立て: まず、調停調書や審判書などの債務名義に基づき、地方裁判所に財産開示手続を申し立てます。養育費等のワンストップ執行手続では、所定の場合に、その申立てと同時に給与債権に対する差押命令の申立てをしたものとみなされます。
  2. 勤務先の情報取得: 財産開示手続において債務者が財産を開示しなかった場合、追加の申立てをすることなく、裁判所が市区町村などの情報提供義務者に対し、相手の勤務先に関する情報を提供するよう命令します。
  3. 差押命令の発令: 勤務先が判明した場合、追加の申立てをすることなく、裁判所が自動的にその勤務先に対して給与債権の差押命令を発令します。

このように、一度の申立てで勤務先の特定から給与の差押えまでが一貫して行われるため、従来の手続きに比べて迅速かつ効率的な回収が可能となります。この養育費等のワンストップ執行手続は、相手が転職を繰り返して勤務先が分からなくなる、といったケースにおいて特に有効性を発揮します。財産開示手続については、当事務所の別の記事でも紹介しています。

ワンストップ執行の限界と注意点【弁護士が解説】

非常に便利なワンストップ執行ですが、万能ではありません。実務上、看過できない重要な限界と注意点が存在します。制度を正しく理解し、過度な期待を抱かないためにも、以下の専門的な視点からの指摘を必ずご確認ください。

注意点1:対象は給与債権のみ【預貯金は対象外】

新制度を検討する上で最も注意すべき点は、ワンストップ執行の対象が「給与債権」に限定されるという事実です。つまり、相手の勤務先を特定し、その給与を差し押さえることしかできません。

ご相談者の中には「相手の銀行口座が分かれば、そこから一括で差し押さえられるのでは?」と期待される方も少なくありません。しかし、ワンストップ執行は預貯金に対してはできません。したがって、金融機関の支店を特定し、預貯金を差し押さえるためには、従来どおり、別途、預貯金に関する情報取得手続や「債権差押命令」の申立てが必要となります。この点は、新制度の最大の制約と言えるでしょう。

ワンストップ執行の対象財産を示す図。給与債権は対象であるが、預貯金は対象外であることを明確に示している。

注意点2:情報取得先にも制約【日本年金機構は対象外】

もう一つの重要な制約は、勤務先の情報を照会できる相手(情報提供義務者)に関するものです。ワンストップ執行で利用できる情報取得手続では、市区町村に照会が可能です。

しかし、多くの会社員が加入している厚生年金の情報を管理する「日本年金機構」は、給与の情報提供命令の対象外です。つまり、相手が一般的な会社員である場合、市区町村から住民税の特別徴収義務者として勤務先情報が得られる可能性はありますが、日本年金機構に直接照会して勤務先を特定することはできないのです。この点も、実務上の大きなハードルとなり得ます。

新制度を有効活用するために弁護士へ相談すべき理由

ワンストップ執行は、養育費等の未払い問題に対する強力な武器となり得ます。しかし、ここまで解説したとおり、その適用範囲には明確な限界があります。また、申立てには法的な専門知識が不可欠です。

特に、以下のようなケースでは、早期に弁護士へ相談することをお勧めします。

  • 相手が自営業者やフリーランスで、給与という概念がない場合
  • 給与だけでなく、預貯金や不動産など他の財産も差し押さえたい場合
  • 相手の財産状況が全く分からず、何から手をつけて良いか不明な場合
  • 法的な手続きを迅速かつ確実に進め、精神的負担を軽減したい場合

弁護士は、ワンストップ執行が有効なケースか否かを的確に判断し、もし対象外であったとしても、預貯金や不動産など、状況に応じた最適な強制執行手続をご提案できます。離婚に伴う養育費の問題は、お子様の将来に関わる重要な問題です。新制度を最大限に活用し、正当な権利を実現するため、まずは一度、専門家にご相談ください。

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