政府は、民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないとの見解を初めて示したそうですが、注意が必要です。
政府は、契約が成立したと証明するにはメールの本文や送受信履歴、契約の当事者を本人確認できる身分証明書の保存などが押印の代用手段になるとの見解を示し、押印以外も裁判所の判断材料になるため、押印は必須ではないと強調したとのことですが、押印の最大のメリットは、その文書を誰が作成したかについて立証が簡単になることです。
例えば、ある契約が成立したかについては、当事者が押印した契約書を提出すれば、それだけで、相手方を含めた当事者がその契約書を作成したことが推定されますので、相手方がそんな契約書を作成した覚えがないと主張したとしても、契約書を作成していないことの立証責任は相手方にあります。
ところが、政府の見解のようにメールの本文や送受信履歴、契約の当事者を本人確認できる身分証明書の保存などがあったとしても、相手方がそんな契約書を作成した覚えがないと主張した場合には、相手方の押印がない限り、相手方がその契約書を作成したことをこちらで立証しなければなりませんので、手間が一つ増えることになります。
契約書等の書面を押印なしで済ませたいとの要望は非常によくわかりますが、現状では押印しないことにはデメリットがありますので、そのデメリットをよく理解した上での慎重な判断が必要です。この点については、法律の改正が望まれます。