不動産占有移転禁止の仮処分の流れ

占有移転禁止の仮処分とは,訴訟を起こす前に利用する手続の一つです。賃料滞納などにより賃貸借契約解除して賃貸物件の明渡しを求めたい場合,借主が任意に立ち退かなければ訴訟を起こして判決をもらった上で明渡しの強制執行を行う必要があるのですが,せっかく訴訟を頑張って借主に対する判決をもらったとしても,強制執行の際に占有屋などの別人が居座っていた場合には強制執行ができなくなってしまいます。

そのような事態を防止するためには,借主に対する訴訟を起こす前に,借主に対する占有移転禁止の仮処分を得ておく必要があります。こうしておけば,あとで賃貸物件に別人が居座っていたとしても,借主に対する明渡しの判決を得て強制執行をすることができます。

また,裁判所執行官が現場に行きますので,借主にプレッシャーを与えることもできます。

占有移転禁止の仮処分はそれほど頻繁にある事件ではありませんので,備忘録代わりに手続の流れを記載します。

1.地裁の保全部に仮処分申立書を提出。

必要書類

①申立書と証拠(賃貸借契約書や督促の手紙,弁護士作成の報告書等)。別途,物件目録等各目録を3部。印紙は2000円,郵券は債務者1人につき1082円。

②不動産登記簿謄本

③固定資産評価証明書

④法人登記簿謄本(当事者が法人の場合)

⑤委任状

2.裁判官と面接。

証拠原本を持参。申立てが認められるときは担保金が決定される。今回は営業店舗のため,賃料の約3か月分。

3.担保金を法務局に供託。

千葉地方法務局本局の場合は同一の場所で担保金を納めることができるが,支局の場合は銀行で納める必要あり。

必要書類

①供託書

②供託者の法人登記簿謄本(原本は還付してもらえる。)

③委任状(供託金取戻手続に備えて代理人の確認請求を忘れないこと。供託時の委任状が取戻手続時の印鑑証明の代わりになる。)

4.供託書を地裁保全部に提出(原本は返してもらえるのでコピーも持参する。)。

その場では仮処分決定書はもらえない。裁判所からの連絡後に取りに行く。

5.執行官に保全執行の申立て。

仮処分の決定が出ただけでは占有移転禁止の効力は発生せず,執行官に現場に行ってもらう必要。現場に行く日時を執行官と打ち合わせる。夜間を希望する場合であっても当方から夜間執行許可申立は不要。追加費用もなし。

必要書類

①仮処分執行申立書(別途,各目録5部が必要。印紙や郵券は必要なし。)

②仮処分決定正本

③法人登記簿謄本(当事者が法人の場合)

④不動産登記簿謄本

⑤委任状

⑥債務者に関する調査表(債務者の在宅状況や物件の地図などを添付。地図はGoogle マップでもよい。)

予納金は3万円。

6.執行日に現場立会。

債務者不在に備えて鍵屋さんにも同行してもらえる。鍵がかかっていても鍵屋さんが開錠して執行官が中に入る。鍵を開ける必要がなかったとしても鍵屋さんに同行してもらえば臨場費がかかり,その場で支払う。鍵屋さん曰く,千葉では臨場費が1万円,開錠した場合でも合計1万5000円とのこと。

7.地裁保全部に保全執行完了の上申書を提出。

仮処分は秘密裡に行わなければならないので,仮処分決定書は原則として保全執行が完了するまで債務者に郵送されない。保全執行完了の上申書を出せば裁判所が仮処分決定書を債務者に郵送する。

8.担保取消決定の申立て

借主が任意に立ち退いたり,こちらが勝訴判決を得て確定した場合には,もはや担保を積む必要がないので,供託金を取り戻すために担保取消決定の申立てをすることができる。借主が任意に立ち退いた場合には,借主から同意書,印鑑証明書,担保取消決定正本の請書及び即時抗告権放棄の上申書をもらい,担保取消申立書と供託原因消滅証明申請書と一緒に保全裁判所に提出する。印紙は150円。

勝訴判決確定の場合には,判決正本写しと照合のための判決正本(判決謄本でも良い),確定証明書,担保取消申立書及び供託原因消滅証明申請書を保全裁判所に提出する。印紙は150円。郵便切手は1名につき1072円。いずれの場合も,決定正本と証明書のための請書を用意しておく。注意点として,担保取消決定が出されたとしても相手方に決定書が送達される必要があるため,すでに強制執行により立ち退かせた後では相手方の新住所がわからない場合に困ることになる。したがって,担保取消申立は強制執行終了までに行った方が良い。判決正本は強制執行申立の際に提出してしまうので,強制執行を急ぐのであれば謄本を使うのが吉。

権利行使催告の方法による担保取消決定もあるが,省略。

9.供託金の取戻

裁判所から供託原因消滅証明が出されたら,供託所へ行って供託金払渡手続をする。現金での還付は小切手で行われるため,非常に面倒。代理人口座への振り込みでの還付もできるが,供託払渡請求委任状に,代理人口座への振り込みにより供託金及び供託金利息を受領する旨の委任事項を記載しておく必要あり。

必要書類

①供託原因消滅証明書

②供託金払渡請求書

③法人登記簿謄本(当事者が法人の場合)

④供託払渡請求委任状

⑤供託の際の代理確認済の委任状(印鑑証明書の代わりになる。)

なお,第三者供託であれば,供託の際には供託書と供託金のみ(相手方が法人であれば資格証明書は必要)を窓口に持参(保全は急を要するため,郵送では間に合わない。)すれば良く,払渡の際には払渡請求書と供託原因消滅証明書を郵送すれば良いので(相手方が法人であれば資格証明書は必要),第三者供託も検討の余地あり。供託原因消滅証明書があれば印鑑証明書は不要。

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