信じていたのに…交際相手が既婚者だったあなたへ
「結婚を前提に」と真剣に交際していた相手が、実は既婚者だった…。その事実を知った時の衝撃は、計り知れないものがあるでしょう。
信じていた気持ちを踏みにじられた怒り、裏切られた深い悲しみ、そして失われた時間への悔しさ。今は、どうしていいか分からず、一人で苦しんでいらっしゃるかもしれません。
どうか、ご自身を責めないでください。悪いのは、大切な信頼関係を裏切った相手です。あなたが受けた心の傷は、法的に「貞操権の侵害」として、慰謝料という形で相手に責任を問える可能性があります。
この記事では、法律の専門家である弁護士が、貞操権侵害とは何か、慰謝料はいくらくらい請求できるのか、そして具体的にどう行動すればよいのかを、一つひとつ丁寧に解説していきます
。この記事が、あなたの心の整理と、次の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
「貞操権侵害」とは?慰謝料を請求できる3つの条件
「貞操権」と聞くと、少し難しく感じるかもしれませんね。これは、「誰と性的関係を持つか、あるいは持たないかを自由に決めることができる権利」のことです。
そして、この大切な権利が、相手の嘘によって侵害された状態を「貞操権侵害」と呼びます。
交際相手が既婚者であることを隠してあなたと肉体関係を持った場合、あなたは「相手が独身である」と信じていたからこそ関係を持ったはずです。
もし初めから既婚者だと知っていれば、交際しなかった、あるいは肉体関係を持つことはなかったでしょう。
このように、相手の嘘によってあなたの自由な意思決定が妨げられた場合、貞操権が侵害されたとして、精神的苦痛に対する損害賠償、つまり慰謝料を請求できる可能性があるのです。
具体的には、以下の3つの条件がそろう場合に、貞操権侵害が認められやすくなります。
- 相手が既婚者であることや独身ではないことを隠していた、または嘘をついていた
- 相手の嘘を信じた結果、肉体関係(性交渉)があった
- 相手が既婚者であると知らなかったことについて、あなたに大きな落ち度(不注意)がない
これらの条件に当てはまるかどうか、ご自身の状況を一度冷静に振り返ってみてください。
貞操権侵害の慰謝料相場と金額を左右する要因
貞操権侵害の慰謝料の金額は、個別の事情によって大きく異なりますが、裁判例や実務上は事案により数十万円から数百万円と大きな幅があります。この金額は、あなたが受けた精神的苦痛の大きさに応じて判断されます。
具体的には、以下のような事情があると、慰謝料が増額される傾向にあります。
- 交際期間が長い
- 結婚の約束や、両親への紹介など、将来を期待させる言動があった
- 妊娠や中絶、あるいは性病に感染させられたといった身体的な被害がある
- 相手の嘘が悪質(例:偽の離婚届を見せるなど)
- あなたの年齢が高く、結婚の機会を失ったことによる損害が大きい
一方で、交際期間が短い場合や、肉体関係の回数が少ない場合などは、相場よりも低い金額になる可能性もあります。

【弁護士が解説】マッチングアプリの出会いで150万円の賠償命令が出た判例
近年、マッチングアプリを悪用した貞操権侵害のトラブルは増加しており、裁判所の判断も注目されています。私が特に重要だと考えている最近の事例をご紹介します。
このケースでは、ある女性がマッチングアプリで出会った男性から既婚者であることを隠されて交際を始めました。
女性が真剣な交際を望み、婚姻歴について尋ねた際も、男性は「独身で交際相手もいない」と嘘をつき通し、約4ヶ月にわたり肉体関係を継続しました。真実を知った女性は心に深い傷を負い、適応障害を発症してしまいました。
この事案に対し、東京地方裁判所は、女性の受けた精神的苦痛は大きいとして、男性に対して約150万円の損害賠償を命じる判決を下しました(2022年12月8日判決言渡・報道等参照)。
この判決は、現代的な出会いの場における裏切り行為に対して、裁判所が厳しい判断を下した一例として、同様の被害に遭われた方にとって大きな意味を持つものと言えるでしょう。
慰謝料請求(損害賠償)の具体的な流れと手順
相手に慰謝料を請求する場合、感情的に行動するのではなく、冷静に、順序立てて進めることが大切です。ここでは、損害賠償請求の一般的な流れをご説明します。

STEP1:まずは証拠を集めることが最重要
慰謝料請求で最も重要になるのが「証拠」です。相手が「独身だと言った」「肉体関係があった」という事実を客観的に示すものが必要になります。
ショックで冷静な判断が難しいかもしれませんが、証拠を消去してしまわないよう、細心の注意を払ってください。
- 「独身だ」「結婚しよう」といった内容がわかるLINEやメールのやり取り
- 婚活サイトやマッチングアプリのプロフィール画面(独身と記載されているもの)のスクリーンショット
- 肉体関係があったことを推認させるメッセージのやり取り
- 二人で写っている写真や動画
- ホテルの領収書など
どのようなものが証拠になるか分からなくても、少しでも関係がありそうなものは、すべて大切に保管しておきましょう。
STEP2:内容証明郵便で請求の意思を伝える
証拠がある程度集まったら、相手に対して慰謝料を請求する意思を明確に伝えるため、「内容証明郵便」を送付するのが一般的です。
これは、「いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。これにより、相手にあなたの本気度を伝え、話し合いのテーブルについてもらう心理的な効果が期待できます。
また、内容証明郵便による請求(催告)は、時効の完成を6か月間猶予させる効果があります。
STEP3:弁護士を通じた交渉、そして訴訟へ
相手が請求を無視したり、話し合いに応じなかったりする場合、当事者同士での解決は困難です。このような場合は、弁護士を代理人として交渉を進めることが有効な手段となります。
法律の専門家である弁護士が間に入ることで、相手も真摯に対応せざるを得なくなり、法的な根拠に基づいた冷静な交渉が可能になります。
交渉でも話がまとまらない場合は、最終的な手段として、裁判所に訴訟を提起することになります。訴訟では、集めた証拠をもとに、裁判官に法的な判断を仰ぎ、あなたの権利の実現を目指します。
一人で悩まず、まずは弁護士にご相談ください
交際相手に裏切られた精神的なショックは、時間が経っても簡単には癒えないかもしれません。それに加え、法的な手続きをご自身で進めることは、さらに大きな精神的負担となるでしょう。
貞操権侵害の問題は、法的な知識はもちろん、相手との交渉術も必要となる複雑な分野です。
当事務所では、男女問題に関するご相談をお受けしてきた経験に基づき、法的な選択肢や今後の見通しについて丁寧にご説明します。あなたの精神的な負担を軽減し、最後までサポートできるよう尽力いたします。
早川法律事務所では、これまで男女問題に関するご相談を扱ってまいりました。まずはお話をじっくりと伺い、あなたの状況にとって何が最善の解決策なのかを一緒に考えさせていただきます。
一人で抱え込まず、まずは勇気を出して、私たちにご相談ください。


