保険会社の提示した過失割合、なぜ納得できないのか?
「どうして、被害者の自分にこんなに過失があると言われるんだ…」「相手のほうが明らかに悪いのに、この割合はおかしい」
交通事故に遭われ、心身ともに大変な状況のなかで、加害者側の保険会社から提示された過失割合に、このように納得がいかない、理不尽だと感じていらっしゃる方は決して少なくありません。
突然の事故で動揺しているところに、専門用語を交えて淡々と説明され、まるでその割合が「決定事項」であるかのように言われると、どう反論してよいかわからず、途方に暮れてしまいますよね。
しかし、どうか一人で抱え込まないでください。保険会社が最初に提示する過失割合は、絶対的なものではありません。
実は、適切な根拠と証拠をもって交渉することで、その割合が変更される可能性は十分にあります。
この記事では、交通事故の過失割合に納得できないときに、ご自身を守るために知っておくべき知識と、具体的な対処法を、弁護士が分かりやすく解説します。
まず知るべき過失割合の基本|誰がどう決めている?
そもそも「過失割合」とは、誰が、どのようにして決めているのでしょうか。この仕組みを正しく理解することが、交渉の第一歩となります。
まず大切なのは、事故現場に駆けつけた警察は、過失割合を決定しないということです。警察の作成する実況見分調書などは後の交渉で重要な証拠になりますが、警察官が「あなたの過失は〇割です」と判断することはありません。
過失割合は、基本的には事故の当事者同士、実務上はそれぞれが加入している保険会社の担当者間の話し合い(示談交渉)によって決められます。
その際、担当者が全くの主観で割合を決めているわけではありません。
過去の膨大な交通事故の裁判例を類型化してまとめた、東京地裁民事交通訴訟研究会 編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ)などを参考に、事故の状況に最も近い基本の過失割合を当てはめ、そこから個別の事情を考慮して修正していく、という方法がとられています。
保険会社はあなたの味方ではない?提示の根拠と背景
「過去の判例を参考にしているなら、提示された割合は正しいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここには注意すべき点があります。
それは、相手方の保険会社は、あくまで「加害者の代理人」であるということです。
保険会社は営利企業であり、自社が支払う保険金(損害賠償金)をできるだけ抑えたいという立場にあります。そのため、加害者側に有利な解釈で過失割合を提示してくるケースが少なくないのです。
決して、被害者であるあなたの味方ではありません。保険会社の提示は、あくまで「相手方の主張」であると冷静に受け止め、交渉のスタートラインに立つという意識を持つことが重要です。
過失割合を覆す鍵「修正要素」とは?
では、どうすれば相手方の主張に対抗できるのでしょうか。その鍵となるのが「修正要素」です。
「判例タイムズ」で示されている基本の過失割合は、あくまで典型的な事故状況を想定したものです。
しかし、実際の事故には、基本パターンだけでは考慮しきれない様々な個別事情が存在します。こうした、基本割合を変動させるべき個別の事情のことを「修正要素」と呼びます。
例えば、以下のような事情は修正要素として考慮され、相手方の過失割合が大きくなる(つまり、ご自身の過失割合が小さくなる)可能性があります。
- 相手に著しい過失があった(例:脇見運転、おおむね時速15km以上30km未満の速度違反など)
- 相手に重過失があった(例:居眠り運転、無免許運転、酒酔い運転、おおむね時速30km以上の速度違反など)
- 事故現場が見通しのきかない交差点だった
- 相手が危険を防止するためやむを得ない場合ではないのに急ブレーキをかけた
- あなたが児童や高齢者、身体障害者だった
「自分の事故にも、当てはまるかもしれない」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。こうした修正要素を的確に主張することが、納得のいかない過失割合を覆すための強力な武器となるのです。
参考:【広報誌】交通事故における損害賠償あれこれ(PDF形式: 1 MB)
過失割合に納得できないときに取るべき3つのステップ
保険会社から納得のいかない過失割合を提示されたとき、感情的に「納得できない!」と繰り返すだけでは、交渉は前に進みません。冷静に、しかし毅然と対応するために、以下の3つのステップで行動していきましょう。
ステップ1:まずは安易に示談に応じない
これが最も重要です。保険会社の担当者から示談書への署名・捺印を求められても、提示された過失割合や賠償額に少しでも疑問があれば、決してその場で応じてはいけません。
一度示談が成立してしまうと、その内容は法的な拘束力を持ちます。後から「やはり納得できない」と思っても、原則としてその内容を覆すことは極めて困難になります。
担当者から「早くしないと不利になりますよ」などと急かされることがあるかもしれませんが、焦る必要は全くありません。まずは「専門家に相談してから回答します」と伝え、時間を作りましょう。
ステップ2:主張の根拠となる証拠を集める
交渉を有利に進めるためには、あなたの主張を裏付ける客観的な証拠が不可欠です。「相手のほうが悪かったはずだ」という記憶だけでは、残念ながら相手方を説得するのは難しいのです。
過失割合の交渉で特に有効となる証拠には、以下のようなものがあります。
- ドライブレコーダーの映像:事故の瞬間が記録されており、最も客観性が高く強力な証拠です。
- 実況見分調書:警察が人身事故直後に作成する書類で、事故現場の状況、当事者の話などが詳細に記載されています。後日、検察庁から取り寄せることが可能です。
- 目撃者の証言:同乗者や通行人など、事故を目撃した第三者の証言も有力な証拠となり得ます。
- 車両の損傷状況がわかる写真:車のどの部分に、どのような角度で、どの程度の損傷があるかは、事故態様を推測する上で重要な情報です。
これらの証拠を集め、事故が実際にどのように起こったのかを客観的に証明する準備を整えましょう。
ステップ3:専門家に相談し、交渉方針を決める
証拠がある程度集まったら、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
専門家であれば、集めた証拠が法的にどの程度の価値を持つのか、どのような修正要素を主張できるのか、そして最終的にどの程度の過失割合を目指せるのか、といった専門的な見通しを立てることができます。
ご自身だけで保険会社の担当者と交渉するのは、知識や経験の差から、精神的にも大きな負担となります。
弁護士に依頼すれば、あなたに代わって保険会社との交渉窓口となり、法的な根拠に基づいて毅然と主張を行うことができます。
交渉で話がまとまらない場合には、交通事故紛争処理センター(ADR)や裁判といった手続きを利用する選択肢もあります。
どの方法がご自身の状況にとってベストなのかも含め、専門家と一緒に交渉方針を決めていくことが、納得のいく解決への近道です。
弁護士が介入し過失割合が覆った解決事例
ここで、当事務所で実際に扱った事例を一つご紹介します。この事例は、弁護士が介入することで、当初不利に見えた状況がどのように変わる可能性があるかを示しています。
ご依頼者様のお父様は、友人が運転する車の後部座席に乗っていたところ、相手方車両に追突されてお亡くなりになってしまいました。
この事故で問題となったのは、お父様が後部座席でシートベルトを着用していなかったという点です。
相手方の保険会社は、この点を捉え、「シートベルトをしていれば、死亡まではしなかったはずだ」として、賠償金を減額する「過失相殺」を強く主張してきました。
判例上も、後部座席のシートベルト非着用は、被害者側の過失として考慮される可能性があるため、ご依頼者様は非常に不利な状況に立たされていました。
しかし、ご依頼を受けた私は、諦めませんでした。代理人として相手方の刑事事件の記録を取り寄せ、加害者が「居眠り運転」をしていたという事実を突き止めたのです。
居眠り運転は、過失割合を算定する上で「重過失」にあたる極めて悪質な行為です。
私はこの点を軸に据え、「本件事故の根本的な原因は、加害者の居眠り運転という一方的な重過失にある。シートベルトを着用していなかった過失があるとしても加害者の重過失が上回るので過失相殺はなされるべきではない」と、法的な根拠をもって粘り強く主張しました。
その結果、裁判所はこちらの主張を認め、シートベルト非着用による過失相殺を一切行わないという内容での判決を勝ち取りました。
この事例のように、一見不利な要素があったとしても、専門家の視点で事故を多角的に分析し、適切な法的根拠を提示することで、状況を大きく変えられる可能性があります。「もうだめかもしれない」と諦めてしまう前に、一度ご相談いただく価値は十分にあるのです。
過失割合の交渉は、交通事故案件の経験がある弁護士へご相談ください
保険会社から提示された過失割合に納得できないまま、示談に応じてしまう。それは、本来受け取れるはずの正当な賠償金を諦めてしまうことと同じです。
しかし、これまでお話ししてきたように、過失割合の交渉には「修正要素」や「証拠」といった専門的な知識が不可欠であり、ご自身だけで対応するには限界があるのも事実です。
もし、あなたが今、保険会社の提示に少しでも疑問や不満を感じているのであれば、どうか一人で悩まず、私たち弁護士にご相談ください。
早川法律事務所では、弁護士歴15年以上の代表弁護士が、ご相談に直接対応いたします。
ご相談者様のお話を丁寧に伺い、状況を正確に把握した上で、豊富な経験に基づき、あなたにとって最適な解決方法を一緒に検討してまいります。
過失割合は、今後の賠償額全体を左右する非常に重要な問題です。納得のいく解決に向けて、私たちが全力でサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。


