「相続では何をすればいい?」
「遺産分割とは何か?」
相続のページでもご説明させていただいたとおり、亡くなられた方がプラスの財産を遺されていて遺言を作成していない場合、相続人がプラスの財産を相続するためには遺産分割という手続きをとる必要があります。このページでは、遺産分割の手続きと基礎知識をご説明させていただきます。
1.遺産分割の基礎知識
(1)遺産分割が必要な場合
亡くなられた方が遺したプラスの財産を相続する方法は、遺言による方法と遺産分割による方法があります。
遺言は亡くなられた方の遺志が記載されているので最大限尊重されるべきという考えから、遺言がある場合にはその遺言の内容に沿って不動産登記手続や預貯金の名義変更・解約等の相続手続が行われるのが原則です。
したがいまして、遺産分割が行われるのは、通常、遺言がない場合(遺言が無効の場合も含む)や、遺言には記載がない財産があったり遺言には財産の分け方が書いてないなど遺言では解決できない場合となります。
(2)遺産分割とは
遺産分割とは、端的に言ってしまえば、どの遺産をどのような方法で誰にどの程度分けるかを決めることです。
例えば遺産として不動産、預貯金、株式があり、相続人が3人いる場合、法律が定めているのは相続割合である法定相続分のみであり、誰がどの財産を相続するかは別途決める必要があります。不動産と預貯金と株式をそれぞれ3分の1にすることもあり得ますし、1人が不動産、もう1人が預貯金、最後の1人が株式を相続するという決め方もあります。
さらに言えば、1人が全部を相続するなどの法定相続分に従わない分け方もあり得ます。また、不動産を3人で分けるにしても、3人の共有にするのか、土地を3筆に分筆するのか、不動産を売ってお金に換えてそのお金を3分割するのか、誰か1人に不動産を全部取得させてその代わりに他の2人には代償金を渡すのかなど、色々な分け方があります。
遺産分割においては、これらをすべて決めなければならないということになります。
2.遺産分割の手続き
(1)相続人の確定
前記のように、遺産分割とは、どの遺産をどのような方法で誰にどの程度分けるかを決めることですが、通常まずは相続人全員で話し合い、分け方が決まった際にはその分け方を記載して相続人全員が署名捺印する遺産分割協議書を作成することになります。
相続人に漏れがある場合、遺産分割は無効となりますので、まずは相続人が誰であるかを確定する必要があります。相続人となる順位は相続のページに記載したとおりです。相続人となるはずの方がすでにお亡くなりになっていたり、相続放棄している場合には複雑になります。
また、お亡くなりになった方に前妻がいた場合にも隠れた相続人がいることがあります。したがいまして、お亡くなりになった方の戸籍を生まれたときまで遡って調査する必要があります。当事務所では相続人調査の代理も行っております。
(2)相続分の確定
相続人が確定したら、相続人それぞれがどの程度の割合で遺産を取得するかを決める必要があります。法律では法定相続分を定めていますが、合意があればこれと異なる割合で分けることもできますし、法定相続分で分けることもできます。いずれにしても、割合を決める必要があります。
(3)分割する遺産の確定
遺産分割においては、一部の遺産のみを分割することも可能です。したがいまして、分割したい遺産を確定する必要があります。もちろん全部の遺産を遺産分割の対象とすることも可能で、通常は把握している全部の遺産を対象とすることがほとんどです。
(4)分割方法の確定
遺産を分ける場合、現金や預貯金であれば金額が決まっているのでその金額を相続分で分配することも可能ですが、口座が複数ある場合、それぞれの口座をそれぞれ特定の相続人に取得させ、金額のズレについては現金で調整することも可能です。
土地の場合には共有にすることも分筆することも可能ですし(現物分割)、売却金を分けることも可能です(換価分割)。また、特に建物の場合には分筆という手段が使えず、住み続けたい相続人がいることもあるため、住み続けたい相続人に代償金という現金を払わせて建物を全部取得させる方法もあります(代償分割)。
いずれにしても、どの遺産をどのような方法で分けるかを決める必要があり、それを決めるために不動産や株式の金銭的評価が必要になる場合もあります。
(5)遺産分割協議書の作成
上記の話合いを経てどの遺産をどのような方法で誰にどの程度分けるかが決まった場合には、通常、決まった内容を記載した遺産分割協議書という書面を作成し、相続人全員がそれぞれ署名して実印を捺印し、全員の印鑑証明書を遺産分割協議書に添付することになります。相続登記を行うにしても、預貯金や株式の名義変更・解約をするにしても、遺産分割協議書を用いて行う必要があります。
なお、遺産分割の話合いは全員が一堂に会して行う必要はなく、それぞれが電話で話すことや手紙を用いて行うことが可能です。最終的に全員の合意ができ、遺産分割協議書にそれぞれ署名捺印することができれば、どのような方法で話合いを行っても構いません。弁護士を代理人として話合いを行うことも可能です。
(6)話合いがつかなかったときには
上記の手続きは相続人全員の話合いで行うことを前提にしていますが、相続人同士の折り合いが悪く、そもそも話合いができない場合や、話合いを行っても相続割合や分割方法などに争いがあって話合いがつかないことも多くあります。その場合には、弁護士に依頼して遺産分割の話合いを代理してもらうこともできますし、相続のページに記載しているとおり、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることも可能です。
裁判所の調停で話が付かなかった場合には、通常、審判手続きに移行して裁判所が強制的に遺産分割を行うことになりますので、ご安心ください。
3 遺産分割を司法書士や税理士に依頼することはできるのか
相続に関わる専門家としては、弁護士の他に、司法書士、税理士などがいます。司法書士は相続登記手続の代理を行い、税理士は相続税申告手続の代理を行いますが、それに付随してそれらの手続に必要な戸籍等の書類を取寄せたり、遺産分割協議書を作成することがあります。
司法書士や税理士と弁護士との決定的な違いは、弁護士以外の者は報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことができないということです(弁護士法72条)。法律事務には遺産分割交渉や遺産分割協議書作成も含まれます。法律事件とは、解釈に争いがありますが、簡単に言えば争いがある事件です。したがいまして、相続人間に争いがあってその解決が必要な場合には、弁護士以外の者は交渉の代理などができないということになります。行政書士ももちろん弁護士以外の者です。弁護士以外の行政書士、司法書士、税理士などが報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱った場合には二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処せられます。
また、弁護士と他士業との最大の違いは、司法試験に合格しているか否かです。司法試験とは、裁判官、検察官または弁護士になるために科される共通の試験であり、法的知識、法的思考方法等、法的問題の解決に必要な能力を有しているかを問う試験です。弁護士は裁判官と共通の試験を通過していますので、裁判官の法的思考方法も熟知しています。したがいまして、法的問題の解決のために最も能力を持ち、信頼できる専門家は、弁護士のみということになります。